「今日は行きたいところがあるの」
「甲府駅前もきれいになって明るくなったわね。便利よね」
遠回りになるとか、信号の位置がどうだとか、昔はもっとよかっただとか、ああすればいいこうすればいいと、工事中はなんだかんだ言っていた母にも好評の新しい甲府駅前南口ロータリー。
ここからバスに乗ることが多いのだが、この日は
改札を通り過ぎた。
改札北側はゆとりの設計になっていて、そこには物産の展示コーナーもある。
水晶の産地、宝飾のまちらしく、ジュエリーもオブジェも並んでる
このオブジェはたくさんの市民がお金を出し合って製作されている。
協力者の名前が刻んであるから、知り合いの名前を探すのも楽しい。
「あれ、あのひともいる!この人も!」
「さ、いかなかきゃ、急がなきゃ」
自分がパネルを見ていたのに、北口に急ぎだす。
「どこかしらね?」
急いでいた割にはどこにその目的のものがあるのか知らないというところがかわいい。
今回の目的は「甲府えんじょいバス」
武田信玄ゆかりの地を巡る期間限定で運行する甲府市観光周遊バスだ。
「れとぽんが来た!」
違う。
これはレトボン。ぽんではない。
ボンネットバスの「ボン」とレトロが掛け合わせた「レトボン」。お買い物バスとして長いこと市内を巡回していたが、3月に惜しまれながら運行終了した。免許を持たずに甲府駅前で生活している母にとっては馴染みのバスだ。
前日は台風の影響で運行中止になっていたので、今日が運行2日目。朝の2便目には次から次へとお客様が来る。
「これを読みながら行きたいの」と、リクエストがあったから家から持ってきたこの冊子。
バスの中で予習。
出発したらあっという間に武田神社。
今回ここは車窓から参拝してスルー
バスをおりたのはここで。
こちら、円光院。
振り返ればこの景色。
武田家ゆかりの寺院。
武田信玄公の継室、三条夫人の墓がある。
寺内を歩く。
「お葬式で来たことはあったけれど、初めて中まで来たわ。こんなふうになっているのね」
その葬儀に車で送ったのは私だ。だからもちろん、私も初。
ここは盆地と山の境。
秋の初めの暑さ、ここに吹く風心地ちよし。
ここを後にし、向かうは信玄公墓所。このあたりは武田の史跡が点在している。
目的地に向かうときの母は足早。
甲州の恵林寺のもあるが、そのほかにも信玄公の墓とされるところはある。その理由はこうふ開府500年の公式HPに記してるので割愛。
「市川猿之助さんの塔婆があるわよ」
「ちょっと、ちょっとこれ、みて、梅の木よ!珍しいのよ!」
「8つも連なって実がなるのよ!」
八房の梅というらしい。
さっきから猿之助だとか、八個の梅だとか、看板や周囲をじっくり見ているわけでもないのに、いろいろ面白いところが、母には浮かんで見えているのではないかと思う。
お散歩中のかわいい子供たちに遭遇。
「みんなあー何の香がしますか???」と聞く保母さんに、「わかんなーい」「うーん、はっぱのにおいー」「おこめー」と子供たちが答えた・・・えっ?!?おこめ!?そこには田んぼがある。
ちょうど稲の穂が見える時期だが、こんな環境の保育園で育つと子供も五感フルに使えるようになるんだなと、感心しきり。
ここで、バス停である円光院へ母だけ歩いて帰らせて、塚の脇を通り龍華山永慶寺跡へ。
柳沢吉保公が定めた柳沢家の菩提寺で、吉里公が定めた甲州八景の「竜華秋月」の場所。ここから見た秋の月が格別とのことだ。
「なにしおはば 嶺(みね)なる秋の 月やしる その暁の 花の光も」
道路脇にある永慶寺跡。
このあたりは車で通りすぎることはあっても、なかなか歩かない場所。その吉里公がどのような月をみたのかと、この遺構を少し上って振り返ると
山の稜線に大きな月が上ってきて、あたりを月明りで照らし、あたりの花や木々までもがきらめいていたのかな。
その月を眺めていた、300年前の月の夜と、もしかしたあまり今もこのあたりは変わらないのではないのかな。
と、思いめぐらす。
このあたりのまちの穏やかさは山梨の他のどの場所にもない。田畑や自然だけの景色とは違う、なんとも、いえぬ、気高さが漂う場所だ。
「次のかいてらすで降りたら甲府五山の能成寺行きたい」
バスを待つ母の元に急いで戻ると、地図を見ながら母が言う。
のどが渇き母と二人でペットボトルの水を分かち合いながら甲府エンジョイバスが来るのを待つ。
「知らないこと、知らない場所、知らない歴史がてんこ盛りだわね」
日々過ごしているだけじゃ、通り過ぎてしまうことも知ろうと思えば頭に入るものだ。
「あ、黄色いれとぽん」
違います。レトボン。
甲府エンジョイバスは9月16日(土)~10月9日(月・祝)の土日祝日で試験運行しています。
試験運行なので今なら乗車無料です。
この後巡ったかいてらす、善光寺、東光寺、能成寺、天然記念物のさかきなどなど。
また別の機会にそこで撮った写真をアップします。こうふ開府500年のフェイスブックか、KOFU500インスタグラムか、このブログで。
母と甲府の駅周辺を歩いてお散歩した時のことはまた別のブログで書いています。タイトルは「母と歩けば」です。よかったら読んでみてください。
バスで、歩いて、そして母の歩速にあわせて。そんな速度がたくさんの物を見せてくれると気づきます。
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