「さて時の移りに従って、すべての物は動いて行くものである」
まちの中心が移った時の変化は、おそらく今の我々が想像することができないものだったと思います。
「あそこにお店ができてまちが開けてきたね」なんていう事とは次元が違う。今の私達が生きるのはまちを動かし、住むことも強制する世界ではないのですから。
武田信虎は続く内乱を制し、1519年に本拠地を甲府市の川田町のあたりから新たに築いた躑躅ヶ崎の館へうつしました。
地域の豪族など有力国人層の城下集住を成し遂げました。これが甲府の誕生です。
舞鶴城公園から武田神社方面を望む。甲府駅の線路、建物がさえぎり今は見えないが、緩やかな坂の上、扇の要にあたる躑躅が崎から要害までは当時は見ることができたのだろうなと思いながら眺めました。
躑躅ヶ崎一帯に城下町を形成して政治、経済、文化の中心として繁栄していたのはたった、60有余年。
信虎公、信玄公、勝頼公の代々続く武田家のラスト3代という短い時間であったことを考えたら、武田家がいかに甲州の強大なる支配者であったかがうかがえます。
そして武田家は滅亡し、織田、豊臣、徳川が入甲して甲府の中心は甲府城から南へ移っていきました。
この日は富士山が見えませんでしたが、舞鶴城の天守台からは甲府盆地が一望できます。殿様しか見えなかった特権の景色を今は見ることができます。
昭和13年に甲府市教育会が発行した「甲府郷土読本」の16章「町名ところどころ」。その①に引き続き、その②です。
今回は短めです。躑躅ヶ崎館、今の武田神社周辺のことです。
「さて時の移りに従って、すべての物は動いて行くものである。
一時繁華であった上府中は、武田氏の新府移転と共に衰亡の一路をたどって、馬場・山県・大熊等の屋敷跡は一面の草におおわれ、秋の月のみが徒にて照らしているようになり、鍛冶小路・柳小路・広小路・一条小路等の家々もどこへか散じてしまった」
今の地図と当時の屋敷地図を重ね合わせたものです。
山県三郎右兵衛や、馬場美濃守の屋敷跡は現在の北東中のところです。
大熊氏はどこだったのでしょうか。
ちなみに大熊氏は元上杉家の重臣。武田氏に内通し、主替えをしています。まずは武勇誉れ高い赤備えの飯富兵部に仕え、その後は弟の山県三郎兵衛昌景に組下したとのことです。
この文中の旧町名を説明しますね。甲府の皆さんの中にも旧町名に親しんでいらっしゃる方たちは多いですが、もしかしたら初耳の町名が出てきたかもしれません。旧旧町名です。誇り高き武田の時代の名前です。
まず「鍛冶小路」は大手2丁目、北東中の正門前の通りのことです。
武田信玄に召し出された斉木助三郎が鍛冶小路に居住して陣具の御用を勤め、国中の鍛冶職人を支配しました。ただ、実際戦国時代、そう呼ばれたかは確かな証拠がないそうです。
「柳小路」は現在の武田通りの一部、江戸時代は元柳町と呼ばれたところです。商人集住の地です。
この柳小路とは違うかもしれませんが、今、その名前は岡島デパートのそば、澤田屋さんの入り口から柳町の通りに抜ける飲食店街に名前がありますね。
この柳小路はおしゃれなカフェや雑貨屋さんができたり、カレー屋さんがあったり、空き店舗も楽しい姿に変わってきている通りですよ。
武田勝頼印判状写(新編会津風土記)はこの地にあった宿「柳町宿」に宛てられ、宿内の家をきれいに作れば諸役(年貢とは別の税金と労働)を免除、造作が未熟ならば免除を取り消したということです。 このあたりには町人の富裕層が住んでいたそうで、政治を左右していたことが甲陽軍艦にも書かれています。
「広小路」は山梨大学教育学部の北側、現在の屋形のあたり。躑躅が崎館跡の西淵を南に下るところにありました。
基本的にこの地は武家が住んでいましたが、京饅頭屋森村忠右衛門という人が住んでいたことがわかっています。
京饅頭屋って、名前聞いただけでもなんだかおいしそうですけれど、この人のお墓は高野山にあります。「甲州府中広小路 京饅頭屋忠右衛門」と墓碑に刻んであるそうです。広小路も武家だけでなく富裕商人が住んでいたと思われます。
「 一条小路」は現在の国立甲府病院の南北の道のあたり、甲府練兵隊兵舎、陸軍病院建設で失われた南北街路の一つです。武田信玄公の弟信竜氏の屋敷に由来するといわれています。
と、今回は、非常に短い一節をピックしましたが、甲府の歴史知らないことだらけで面白いです。
次回の「町名ところどころ」はいよいよ、お城、舞鶴城のことが出てきますよ!
「しばらくすると、その南、一条小山には白壁陽に映えて、まばゆいばかりのお城が空にそびえ…」で始まります。
皆さまに馴染み深い旧町名がたくさん出てくるようになります!
形あるものもないものも。
甲府のまちもその通り、動き、変化を繰り返しています。そして今の甲府になっています。
これからも変化しますね。
それではまた。不定期連載「町名ところどころ」その③に続く。
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